時を編む七島藺
2025.09.13 建築 NEW
陽炎が立ち昇っている午後、じりじりと暑い日差しから逃げるように、ようやく戻ってきた。急かされているわけではないのに玄関ドアの鍵を開ける手元は少し慌ただしい。建物に入るや否や、両脇に抱えた荷物をおろし、呼吸を整える。
この疲れは暑さのせいだろう。飴色に艶めいた七島藺のあるホールに腰を落とし、背を倒して天井を見上げた。七島藺の香りが不意に体に入ってくる。この香りは、懐かしさを呼び覚ます。小学生の夏休みに畳の上で昼寝していたときのあの安心感に背筋が緩む。築十年を迎えた建物に、なお七島藺の香りが漂っていることに驚かされる。

七島藺は、「横になりたい」「座りたい」と自然に思わせる力を持っている。腰のあるしっかりとした弾力、手触りが心地よく思わず表面を掌でなぞってしまう。丁寧に編み込まれた繊維の節々に職人の技と時間が刻み込まれているのを感じる。その一本一本の強さが、七島藺の印象を一段と豊かにし、年月を重ねても崩れない頼もしさがあるのだ。
七島藺は、ただの床材ではない。日常のざわめきを払い、時間を贅沢に変えてくれる存在。やがて色はゆっくりと深まり、時の重ねが美しさになる。あなたにとって「帰ってきたい場所」に七島藺を重ねてみたらいかがだろうか。
